Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

Lesen Sie 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 285.635 Zeichen · 558 Bildschirme

Aozora Bunko

「わたしは何も言ってやしない、ただ、怖いから逃げて来たのよ」

「火事が怖ろしいだけではございますまい、あなたのお胸には、良心の怖れがございます」

「何ですって」

「ああ、あの火事の知らせる早鐘よりも、あなたのお胸の轟きが、私の胸に高く響くのはなにゆえでしょう、あの火事の炎の色は見えませんけれど、あなたの息づかいが、火のように渦を巻いているのが聞えます」

「弁信さん、出鱈目を言ってはいけません、誰だって……誰だって、こんなに急いで来れば動悸がするじゃありませんか、そんなことを言うのはよして頂戴、そうでなくってさえ、わたしは怖くてたまらない」

「何が、そんなに怖いのでしょう、火事は家を焼き、林を焼くかも知れませんが、人の魂を焼くものではありません」

「だって、だって、弁信さん、お前は眼が見えないから、それで怖いものを知らないんでしょう」

「怖いのは、火事ではありません、人の心です」

「いやなこと言わないようにして下さいよ」

「本当のことを言っているのでございます、私には、火事の火の色は見えませんけれども、心の火の色が見えます」

「今は、そんなことは言わないで頂戴」

「そうして、お嬢様、あなたは、これからどこまでお逃げなさるつもりですか」