Japanische Klassiker mit Furigana
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ちぎりきぬ
契りきぬ
山本 周五郎
Lesen Sie 契りきぬ (ちぎりきぬ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.757 Zeichen · 66 Bildschirme
久しぶりで今夜は馬鹿のように眠れる。そんなことを云ったが、そのときの本当に安堵したようなうれしそうな顔がまだ見えるようであった。
「あたし蔭で聞いていたわ、そしてもらい泣きをしたわよ、なつさん」
いねは涙を拭いて、囁くように云った。
「あんなになつさんのことを思っているんじゃないの、あんなにいろいろ気をくだいていらっしゃるじゃないの、――それをまた逃げるなんて、あれだけ思ってくれる気持を受けないなんて、それじゃあんまりひどいと思うわ」
「あたしだってそうしたいわ、あたしだってあの方のお側へゆきたいのよ」
嗚咽が喉をふさぎ、幾ら拭いてもあとからあとから涙が頬を濡らした。今すぐにとびだして、そのひとのふところへ縋りついて、声かぎりに泣きたいと思う、だがそうすることはできない。おなつは身もだえをし、歯をくいしばって、噎びながら続けた。
「あたしあの方が好きなの、生涯でたったひとりの方だわ、――だからそれだからお側へはゆけないのよ」
「わからない、あたしにはわからないわ」
「あたしが初めてあの方のところへいったのは、あの方をくどきおとして、お客にして、みよしからお金を貰い、証文を取って、みんなをあっと云わせるつもりだったの、ひどい、自分でいま考えてもあんまりひどい、恥かしい、いやらしい気持だわ……あたしがあの方を本当に想い