Japanische Klassiker mit Furigana
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ちぎりきぬ
契りきぬ
山本 周五郎
Lesen Sie 契りきぬ (ちぎりきぬ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.757 Zeichen · 66 Bildschirme
三の一
「ごめんあそばせ、おひやを忘れまして」
こう云いながら、おなつは枕近くへ寄って、静かに盆を置いた。精之助は眼をあいた。そして一瞬、燃えるようなまなざしでじっとこちらの顔を見た。――今にも彼の手が延びて来そうだった。おなつは息が詰った。
「――有難う、おれも気がつかなかった」
精之助は喉になにか閊えたような声でそう云い、そのまま眼をつむった。おなつは緊張から解かれ、失望と安堵とのいりまじった、痛痒いような気持でそっとひきさがった、そして障子を閉めようとしたとき、
「――なつ」
という低い声をうしろに聞いた。おなつは閉めかけた障子の手を止めて、そっと振返った。
「はい、お呼びでございますか」
彼は元の姿勢のまま眼をつむっていた。
三の一
なつと呼んだ精之助の声には、明らかに衝動の火がこもっていた。抑えかねた情熱のひびきが、じかにこちらへ糸を引くように感じられた。――おなつは膝をついたまま振返り、それが予期した瞬間であることを直感して不安と媚とのいりまじった、無意識のしなをつくりながら眼をあげた。
「――お呼びでございますか」
精之助は元の姿勢のままだった。枕の上に仰向けに寝て、じっと眼をつむったまま――そうして、やがて静かに云った。