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Japanische Klassiker mit Furigana

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むすめ

娘

岡本 かの子

Lesen Sie 娘 (むすめ) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.846 Zeichen · 16 Bildschirme

Aozora Bunko

パンを焼く匂いで室子は眼が醒めた。室子はそれほど一晩のうちに空腹になっていた。

腹部の頼りなさが擽られるようである。くく、くく、という笑いが、鳩尾から頸を上って鼻へ来る。それが逆に空腹に響くとまたおかしい。くく、くく、という笑いが止め度もなく起る。室子は、自分ながら、どうしたことかと下唇を痛いほど噛んで笑いを止め、五尺三寸の娘の身体を、寝床から軽く滑り下ろした。

日本橋、通四丁目の鼈甲屋鼈長の一人娘で、スカールの選手室子は、この頃また、隅田川岸の橋場の寮に来ていた。

窓のカーテンを開ける。

水と花が、一度に眼に映る。隅田川は、いま上げ汐である。それがほぼ八分の満潮であることは「スカールの漕ぎ手」室子には一眼で判る。

対岸の隅田公園の桜は、若木ながら咲き誇っている。室子が、毎年見る墨水の春ではあるが、今年はまた、鮮かだと思う。

今戸橋、東詰の空の霞の中へ、玉子の黄身をこめたような朝日が、これから燃えようとして、まだ、くぐもっている。その光線が流れを染めた加減か、岸近い水にちろちろ影を浸す桜のいろが、河底の奥深いところに在るように見える。

黄薔薇色に一幅曳いている中流の水靄の中を、鐘ヶ淵へ石炭を運ぶ汽艇附の曳舟が鼓動の音を立てて行く。