Japanische Klassiker mit Furigana
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ことうのおに
孤島の鬼
江戸川 乱歩
Lesen Sie 孤島の鬼 (ことうのおに) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 181.795 Zeichen · 359 Bildschirme
その前日、いやその前夜七時頃までも、私は初代と語り合っていたのだった。晩春の銀座の夜を思出す。私は滅多に銀座など歩くことはなかったのだが、その夜は、どうしたのか初代が銀座へ行って見ましょうと云い出した。初代は見立てのいい柄の、仕立卸しの黒っぽい単衣物を着ていた。帯はやっぱり黒地に少し銀糸を混ぜた織物であった。臙脂色の鼻緒の草履も卸したばかりだった。私のよく磨いた靴と彼女の草履とが、足並を揃えて、ペーヴメントの上を、スッスッと進んで行った。私達はその時、遠慮勝ちに、新時代の青年男女の流行風俗を真似て見たのであった。恰度月給日だったので、私達は少しおごって、新橋のある鳥料理へ上ったものだ。そして、七時頃まで少しお酒も飲みながら、私達は楽しく語り合った。酔って来ると、私は諸戸なんか、今に御覧なさい私だって、という様な気焔を上げた。そして、今頃諸戸はきっとくしゃみをしているでしょうね、と云って思上った笑い方をしたのを覚えている。アア、私は何という愚ものであったのだろう。
私はその翌朝、昨夜別れる時、初代が残して行った、私のすきでたまらない彼女の笑顔と、ある懐しい言葉とを思い出しながら、春の様にうららかな気持で、S・K商会のドアを開けた。