Japanische Klassiker mit Furigana
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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
Lesen Sie 寺田寅彦随筆集 第五巻 (あひるとさる) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 194.515 Zeichen · 389 Bildschirme
までは覚えているがその先は忘れてしまった。
子供らはこの薬売りの人間を「ホンケ」と呼んでいた。「ホンケが来たホンケが来た」と言って駆け出して行っては、この「ホンケ」を取り巻いて、そうして口々に「ホンケ、オーセ、オーセ」と言ってねだった。「オーセ」は「ちょうだい」という意味であるが、ここの「ホンケ」はこの薬売り自身をさすのではなくて、薬売りの配って歩く広告のビラ紙のことである。この人間の「本家」がまき歩くビラの「ホンケ」は、鼻紙を八つ切りにしたのに粗末な木版で赤く印刷したものであったが、その木版の絵がやはり蝙蝠傘をさして尻端折った薬売りの「ホンケ」の姿を写したものであった。いっしょに印刷してあった文字などは思い出せない。子供らにとってはこのビラ紙も「ホンケ」であり、それをくれる人間も「ホンケ」であったわけである。とにかく、このビラ紙をもらうのが当時のわれわれ子供には相当な喜びであった。今になって考えると実に不思議である。少年雑誌やおとぎ話の本などというもののまだ一つもなかった時代では、こんな粗末な刷り物でも子供には珍しかったのであろう。ずいぶん俗悪な木版刷りではあったが、しかし現代の子供の絵本のあくどい色刷りなどに比較して考えるとむしろ一種稚拙にひなびた風趣のあるものであったようにも思われる。