Japanische Klassiker mit Furigana
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あきかぜとはは
尾崎士郎短篇集
尾崎 士郎
Lesen Sie 尾崎士郎短篇集 (あきかぜとはは) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 108.032 Zeichen · 216 Bildschirme
――と、何べんとなく自分の心に念を押してから左手にひらけた横町へまがっていった。そこから二つ目の四つ角の百合のいる酒場の扉をあけると外の空気とはおよそ不調和なざわめきがたちまちしいんとしずまって、テーブルを占めている客の顔が一せいに扉の方をふりかえった。誰ひとり声高に話しているものもなく、あたらしい客が入ってくるごとに物におびえたような視線がチカチカと入りみだれる。十二、三人いる女給たちも三分の一はやすんでいたが、三人が入口にちかいテーブルに腰を据えると奥の方からそっと立ちあがった百合が笑いかけた。
「やっぱり」
と、彼女はうきたつような調子で伍一の耳へ口を寄せると、
「ねえ、きっと来て下さると思ったのよ」
声にも表情にも何か見透しつかない不安の中へ誘いこまれてゆくようなひた向きなものがひそんでいる。どうにでもなれというほど捨鉢なかんじでもないが、見えざる暴力に対して心を湧き立たせているような溌剌とした情感が彼女の顔をひきしめているのだ。伍一の好みからいうとまったく逆な型の女であったが、表情をかすめる陰影の変化がときどき彼女を二十二、三の若さにひきもどすかと思うと、何かの拍子でだしぬけに長い生活の習慣がムキ出しにあらわれ、その顔がみるみるうちに生きることに不敵になりきった四十女の太々しさにぬりつぶされる。