Japanische Klassiker mit Furigana
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げんじゅつてんまたろう
幻術天魔太郎
野村 胡堂
Lesen Sie 幻術天魔太郎 (げんじゅつてんまたろう) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 45.616 Zeichen · 90 Bildschirme
舟の中の幻術
舟の中の幻術
その夜、品川沖にうかんだ釣船の一つに、白衣の心外道人と、駿河太郎と、その妹の月子が乗って、釣糸をたれるでも、網をうつでもなく、汐にまかせて、沖へおきへと流しておりました。
もっとも、船頭はひとり、ともにいるにはおりますが、頬かぶりのむこうむきで、闇の精のようにだまりこくっております。
「道人さま、――危いいのちをお助けくださって、お礼の申しあげようもありませんが、このうえの願いは、ご本名をうち明けてはくださいませんか」
駿河太郎は、船底に手をついて、白衣の道人をあおぐのです。心ぼそい灯が船一パイの物と人をまっ黒な夜の波の上にえがきだして、遠くから見たら、これがただの釣とも見えるでしょう。
「いや、いや、私は、なすべきことをしただけのことじゃ、本名などと、とんでもない。苗字も名も、人にしられるほどの私ではない」
心外道人はもってのほかと手をふりますが、駿河大納言のわすれ形見――将軍家光の甥にたいして、こう口をきけるのは、ただの人間でないことは、あまりにもあきらかです。
「では、せめて、鈴ガ森の仕置場で、私をすくってくださった、あのふしぎな術はなんと申すものでしょう。