Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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げんじゅつてんまたろう

幻術天魔太郎

野村 胡堂

Lesen Sie 幻術天魔太郎 (げんじゅつてんまたろう) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 45.616 Zeichen · 90 Bildschirme

Aozora Bunko

「これはたまらぬ」

と思って、宿直の家来をよぼうとしましたが、どうしたことか、少しも声がでません。そのうちに、寝所の屋根がポカリと開いて、月がなかったはずの夜の空が、銀ネズミ色に見えたとおもうと、シノをつくような大雨が、伊豆守の頭のうえから、えんりょえしゃくもなくたたきつけるのでした。

「あッ」

と思う間に、寝所のたたみの上いっぱいに水はたまって、伊豆守をのせた床も、枕もとのあんどんも、刀かけの刀までが、フワフワと浮くのです。

起きあがろうとしましたが、どうしたことか、からだが自由になりません。そのうちに、どしゃ降りの雨はますますひどくなって、たたみの上の水は、三尺から五尺になり、ついには一丈にもなります。

気がついて見ると、床をめぐって左右前後に、コイやらフナやらナマズやら、おびただしい魚が、銀鱗をひらめかし、ゆうゆうと泳いでおります。

「殿さま、お召しでござりますか」

銀のスズをならすようなかわいらしい声、ふりかえると右手の方、枕にちかく、魚群をかきわけて、一匹の人魚が、桃色しんじゅの肩を水のうえにだして、みごとな黒髪をサッと水の上にただよわせるのでした。