Japanische Klassiker mit Furigana
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げんかくき
幻覚記
豊島 与志雄
Lesen Sie 幻覚記 (げんかくき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.700 Zeichen · 10 Bildschirme
そして其処では、おのずから高声に物を考えるのだった。
ドン・ファンが深夜、河岸ぷちを歩いていると、悪魔が出て来た。「悪霊」のスタヴローギンが深夜、河岸ぷちを歩いていると、懲役人のフェージカが出て来た。だが有楽橋から呉服橋へかけたあの河岸ぷちには、深夜と雖も、悪魔も懲役人もいない。垂れさがってるしなやかな柳絮が、さらさらと帽子をなでるだけである。そしてただ、何故となく、私は高声に物を考えるのである。
歩きながら高声に物を考えるのは、一のリズムに身を投ずることである。私の心意も肉体も一のリズムに乗って、そのリズムが、或は紆余曲折しながら、或は飛躍しながら、進んで行く。然しそれには、何かの伴奏か、反響か、手応えが、ある筈である。
そうだとか、そうでないとか、諾否の返答が、どこからか響く筈である。好意か敵意かを含むゼスチュアーが、どこかに見られる筈である。向うの柳の木影に、或はそこの電柱の影に、何かが佇んでる筈である。掘割の底から何かの泡がたつ筈である。
然し、何物もない。私は冷たい鉄の手摺にもたれて、眼を閉じる。もう脳裡の思考もとぎれて、何物もない……。