Japanische Klassiker mit Furigana
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げんかくき
幻覚記
豊島 与志雄
Lesen Sie 幻覚記 (げんかくき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.700 Zeichen · 10 Bildschirme
それは誰でも日常経験することである。吾々が物を考えるのは言葉によってであって、その言葉が、或は心象となって沈黙し、或は低い呟きとなり、或は高声の叫びとなるのであろう――固より、脳裡に於てであるが。高声に物を考えるのは、多くは情意の昂奮している場合であろうが、然し情意の状態の如何に拘らず自然にそうなるような場所もある。
往年、私は屡々、有楽橋から呉服橋までの河岸ぷちを、深夜、歩くようになっていた、というより、歩くようにしていた。
夜遅くなると、あの河岸ぷちの方には殆ど人影がない。反対側の歩道は、ちょいちょい人通りがあり、その先は日本橋裏通りの賑やかな場所であるが、わざわざ掘割の岸を歩く者はないと見える。
歩道は狭く、柳の並木があり、低い手摺の外はじかに掘割であって、満潮の折には水が深々と寂寥を湛える。其処を歩いていると、電車路を走る自動車の音も耳を煩わさない。対岸には、小さな社宅か寄宿舎らしい粗末な建物があり、それが人間生活の玩具箱のように見え、東京駅の大ドームが、空洞な廃墟のように思われる。――但し昼間のことは知らない。
私はその河岸ぷちを歩くのが好きで、銀座あたりで夜が更けても、わざわざ足を運ぶのだった。