Japanische Klassiker mit Furigana
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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
Lesen Sie 怪しの館 短編 (あやしのやかた) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 81.915 Zeichen · 165 Bildschirme
。――これらのことも心にかかっていたが、しかし彼女には、もっと心にかかることがあった。
それは、この部屋そのものであった。
彼女がまだ娘であった頃、同藩――沼田藩の槍奉行、斉藤源太夫の息子源之進と結婚することになり、婚礼の席へ臨んだ。ところが源之進が余りの醜男なのに厭気がさし(長いこれからの浮世を、こんな男と一緒にくらさなければならないとは。厭だ厭だ)と思い詰め、生一本の娘の、前後見ない感情からその席を遁がれ、実家へ逃げ帰り、居合わせた若党の井口権之介というのを連れ、夢中で家出し、駕籠で山越えをし、この猿ヶ京の、この桔梗屋の、この別館の、この部屋で一夜を明かしたが……
(その因縁の部屋へ泊まるとは)
松乃は眼を開き、いまさらに部屋の中を見廻した。辺鄙の山の温泉の宿は、部屋の造作も装飾も以前と変わらなかった。天井の雨漏りの跡さえそのままであった。
(主家の娘を誘惑したというかどで、権之介は、お父様に片耳を剃がれて放逐されたが、その後どうしたことやら。……噂によれば、身を持ち崩したあげく、恐ろしい大賊になったということだが……三国峠の権という大賊に。……それもこれも元はといえば妾の不注意から。