Japanische Klassiker mit Furigana
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さんじのあと
惨事のあと
素木 しづ
Lesen Sie 惨事のあと (さんじのあと) von 素木 しづ (しらきしづ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.258 Zeichen · 23 Bildschirme
勿論、万吉は最初から殺意があったわけではない。彼は今日こそは、毎日/\考えぬいたことをこの美しい嫁さんに打あけて、自分の思いを遂げたいと思って、とう/\殆んど夢中で、ながい間胸に畳んで居た、嫁さんに対する恋をうちあけて了った。そしてその時はもはや万吉は、意識の明瞭を欠いていた。いざとなれば飛びついて、自分の愛して居るものを、どうにでもしかねまじき勢で、熱心に、全くすがりつくように、また憐みを乞うものゝように嫁さんに対して迫まった。万吉の眼は血走って、すべての血液が両手と頭にだけ溢れてしまって、他の五官は働きを失ってしまったかのようであった。それでいて、青い顔がより以上青ざめて、唇の色は土のように黒く、下唇のぶる/\ふるえるのを噛みしめながら、口のかわきを時々のみこむ唾液でうるおして、心から嫁さんに肉迫した。
嫁さんは、この万吉の要求を頭から拒絶した――というよりは殆ど正気とは思えないので相手にしなかった。しかしじょうだん半分とも思えなかったので思わずぞっとした。とその一瞬間――のぼせ上って血眼になっている万吉の眼は、グル/″\とまわってあたりを見た。