Japanische Klassiker mit Furigana
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わがやのらくえん
我が家の楽園
久生 十蘭
Lesen Sie 我が家の楽園 (わがやのらくえん) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 90.195 Zeichen · 175 Bildschirme
千々子さまの家族史には、両親や兄弟の名が、ただのいちども書かれたことがなかった。どこかの男に、できるだけ値よく自分を売りつけ、いやな肉親の家から、一日も早く脱出しようというので、その辺の仕掛けを細かくやっておいたものだから、まだ女学校にいるうちに、いろいろな魚が集ってきた。
戦前と戦中は、時勢が時勢だったから、これというほどのものもかからなかったが、終戦後間もなく、すごいアタリがあった。生糸で二億円も稼ぎだした東洋シルクの社長と称する、戦後派中の豪傑だったのである。
千々子さまはアタリの意外な大きさに仰天して、夜も寝つけぬくらいに昂奮していたが、式をあげる三日前、お目あての魚は、新聞に写真が出たような、変った自動車事故で、あっともいわずに死んでしまった。
そのときの千々子さまの憤怒の形相ときたら、見るもすさまじいほどで、
「とんまなひとは、とんまな死に方しかしないものなのね。死ぬにしたって、式をすましてから死んだらどうなのかしら。なんというバカなんでしょう」
と、賢夫人にさんざんにあたりちらしたものであった。
東洋シルクの社長は、天国のどこかの門のあたりで、この声を聞いて、えらいやつに食いつかれて、すんでのことに地獄の一生になるところだったと、思わず魂の首をすくめたこったろう。