Japanische Klassiker mit Furigana
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あるおんな
或る女
有島 武郎
Lesen Sie 或る女 (あるおんな) von 有島 武郎 (ありしまたけお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.981 Zeichen · 295 Bildschirme
葉子はふと定子を懐妊していた時のはげしい悪阻の苦痛を思い出した。それはおりから痛ましい回想だった。……定子……葉子はもうその笞には堪えないというように頭を振って、気を紛らすために目を開いて、とめどなく動く波の戯れを見ようとしたが、一目見るやぐらぐらと眩暈を感じて一たまりもなくまた突っ伏してしまった。深い悲しいため息が思わず出るのを留めようとしてもかいがなかった。「船に酔ったのだ」と思った時には、もうからだじゅうは不快な嘔感のためにわなわなと震えていた。
「嘔けばいい」
そう思って手欄から身を乗り出す瞬間、からだじゅうの力は腹から胸もとに集まって、背は思わずも激しく波打った。そのあとはもう夢のようだった。
しばらくしてから葉子は力が抜けたようになって、ハンカチで口もとをぬぐいながら、たよりなくあたりを見回した。甲板の上も波の上のように荒涼として人気がなかった。明るく灯の光のもれていた眼窓は残らずカーテンでおおわれて暗くなっていた。右にも左にも人はいない。そう思った心のゆるみにつけ込んだのか、胸の苦しみはまた急によせ返して来た。葉子はもう一度手欄に乗り出してほろほろと熱い涙をこぼした。