Japanische Klassiker mit Furigana
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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
Lesen Sie 新編 近代美人伝 (上) (めいじびじんでん) von 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.076 Zeichen · 256 Bildschirme
とはいえ、もの憂き月日であった事は察しられる。父の老伯は彼女を信仰によって復活させようとした。初夏の六月の上旬、あわれな親心は不幸な娘を伴って、本所外手町に天理教の教会をおとずれた。父親の温かい愛は、慈悲と慈愛をもって、幼女を抱いてゆくように保護していった。そんな優しい心持ちの湧だすのを老伯自身さえ不思議に思ったほどであろう。深い悲しみにあってはじめて知る親と子の融合は、物質に不足のないだけで、心の饑をさとらなかった親子の間には、今までには酌めなかったものであったかも知れない。子を信仰に導くために親も天理教の信徒となり帰依することを誓った。
けれども、それだけで彼女の心に慰安があったか? 絶対に秘密をまもり、彼女の動作については、何一つ外部へ知らせまいとしても、そう容易く意地悪な世人が忘れようとしない。下渋谷宝泉寺内の隠れ家も、
「姦婦鎌子ここにあり、渋谷町の汚れ立退け」
と張札をして、酒屋、魚屋、八百屋連の御用聞たちが往来のものに交って声高に罵りちらして、そこにもいたたまれないようにさせたが、やがてその侘住居も戸を閉めてしまった。釘づけにされた主なき空家の庭には、真紅のダリヤが血の色に咲きみだれて残るばかりであった。