Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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いちかわくめはち

新編 近代美人伝 (下)

長谷川 時雨

Lesen Sie 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) von 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 138.172 Zeichen · 277 Bildschirme

Aozora Bunko

夏目先生が千駄木にお住居であったころ、ある日夕立の降るなかを、鉄御納戸の八間の深張の傘をさして、人通りのない、土の上のものは洗いながされたような小路を、ぼんやりと歩いていらっしゃると、日蔭町というところの寄席の前で一台の幌車にお出合なされました。セルロイドの窓が出来ない時分であったので、先生は遠目にも乗っているのは女だという事にお気がおつきでした。車の上の人は無心にその白い顔を先生に見せているのが、先生の眼に大変美しく映ったので、凝と見惚れていらっしゃるうちに、芸者だろうというようなお心が働きかけたそうでした。俥が一間ばかりの前へ来たときに、俥の上の美しい人が鄭寧な会釈をして通りすぎたので、楠緒さんだったということに気がおつきなされたのでした。

その次に先生が楠緒さんにお逢いなされたときに、有のままをお話しなさる気になって、「実は何処の美しい方かと思って見ていました。芸者ではないかしらとも考えたのです」と仰しゃられたら、楠緒さんは些とも顔を赭らめず、不愉快な表情も見せず、先生のお言葉をただそのままにうけとられたらしかったと、懐しいお話しがありました。