Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
高原を通って眼にして来た山山の中、今矢代の仰いでいる寸前の山ほど彼を驚かしたものはまたとなかった。巨大なミルクの塊のようで一条の草もない。空よりも高く突き抜けているかと見える頂から、氷河を垂らしたその姿は、見れば見るほどこの世の物とは思えなかった。あまり見惚れていたものか首の後ろが疲れて来たが、彼は花を摘みつつ歩いては山をまたぼんやりと眺めてみた。
そのうちに疲れが全身に廻っていると見えて、眠くもないのに瞼がだんだん塞がって来た。彼は眼をこすりこすり幾度も山を仰いでいると、あたりがぼうと霞んで来た。これはいよいよやられたなと矢代は思った。日本を出発するとき衰弱の激しかった彼は、多分旅中死ぬかもしれぬと自分で思い、友人の二三の者から注意をされたのも思い起すと、やはりこの一人旅行は無事ではすむまいと覚悟した。しかし、今は矢代は楽しさに胸のふくるる思いであった。花野の中に一軒見えた茶店へ這入り、屋外の椅子にかけて牛乳を註文した。ビールを飲む大きなコップに搾りたての冷たい牛乳を、足をはだかり山を仰いで傾けていると、山も雲も氷河もともに冷たく咽喉へ辷り流れて来るのであった。