Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

「あそこね、じゃ、また。」

と云ってお辞儀をしたが、しかし、そのまま少しくためらう風にまだ立っていてから、もう一度お辞儀をして円柱の向うへ離れていった。もう幕の上る時間に近づいたらしく人人はそれぞれ桟敷の方へ流れていった。矢代はいつもより青ざめた大きな眼のあわただしげな千鶴子の様子を思うと、故もなく動悸が激しくなり、桟敷へ真直ぐに戻る気持ちがしなかった。

場内では幕が上ったらしい気配だったが、真紀子はまだ戻って来なかった。久し振りで高と会ったのだから彼の桟敷へ一緒に行ったにちがいないが、今は矢代はそれどころではなかった。千鶴子の張りつめたような眼の大きさが一大事の前触れのように頭に泛んで来てとれなかった。もう自分も完全に顛覆してしまっている。――矢代は人の全くいなくなった柱廊のひっそりとした真紅の絨毯の上を歩きながら、何事か深まっていく決意の中に身を沈めようとするような憂鬱な表情に変っていった。桟敷の鍵を持った黒い服の老婆が静かに柱の影から歩いて来た。すると、彼に近づいて来た老婆は鍵を出して、

「これ。要るんですか。」と訊ねた。

「いや。」

と矢代は云ったが、ふと老婆は千鶴子とピエールの部屋に鍵をかけにいったのではなかろうかと思った。