Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
」
矢代は無理に千鶴子をひき据えるようにして土の上へ頭をつけさせた。千鶴子も俯伏せになっていたが黙って何も云わなかった。
「ああ日本へ帰りたい。この匂いだけを忘れちゃ駄目だ。」
こう矢代はひとり呟きながら膝を揃えてまた匂いを嗅いだ。頭の心が急に突きぬかれていくような酸素の匂いで粛然とした気持ちが暫く二人を捕えて放さなかった。
着替える真紀子を待って久慈がホテルを出たころは、もう正午近かった。道路に開いたマンホールからむっと生温い炭酸瓦斯が顔にあたった。歩く足もとの壁の空気抜きからも、地下室の冷たい風が不意に吹き上って来たりした。
食事場へ行くのに久慈は裏路を選んだので、日光のあまり射さぬ傾いた石壁の間の通りは、駄馬の蹄の音がかたかたと強く響いた。売れ残った青物の萎びたのが荷車の上で崩れている。
久慈も真紀子も、昨夜はどこへ行ったかなどと訊く詮索癖など、いつの間にかなくなってしまっていた。互に心に想うことは、まるで別のことだという一点だけ知り合っている二人のように、何か足もせかせかと早まって動いてゆくのだった。
剥げ落ちた壁の向うから羽根まで黒い雀が飛び立った。