Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

国境を越して日本へ入れば、自分は誠実無二な日本人になろうと矢代は突拍子もなくそう思った。そうなるにはどんなことをすれば良いかと、また一寸彼は考えてみたが、それも忽ち問題ではなくなり、無性に早く国境の向うへ辷り込みたくなった。久慈や東野や塩野の顔がしきりに泛んでは消えた。皆それぞれ矢代と前後して帰って来る筈になっている者たちばかりの顔だったが何ぜともなく今はこういう知人たちとも顔を合したい気が起らなかった。

「いよいよと思うと、一寸妙な気がしますね。」

と矢代は間をおいて南に云った。

「今度の国境は一番うるさいですよ。ここさえ越せば、後は一時間で満洲里だから、もう大丈夫だが。」

今までも幾つとなく国境を通り越して来ていた矢代だったが、この度びの国境だけは、特に厳重に眼匿しされた馬に自分が似て見え、疲れて忘れている違犯の部分がないかと彼は考えてみた。一つ間違いがあれば、ここではどこへ連れて行かれるか分らぬという噂さを聞いていただけに、薄暗い部屋の外の闇が絶えず無数の監督の眼に見えた。それも身動き出来ぬほどの重圧感で、何か死をひきつれてさ迷っているような静かな不気味さが、ドアの外から滲み込んで来る。