Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

どの樹も雪にしな垂れた峡間の冷たさが膝もとから刺し上って来た。

「東京へ着くのは幾時ごろです。」

矢代はうっすらとぼけ霞んで見える千鶴子の方を向いて訊ねた。

「三時過ぎになりますかしら。」

日の光りが霧を切り、縞になって湯の一角へ透っていた。その光りの筒を仰ぎながら体を捻じて、千鶴子は湯を肩からかけ流す昔を立てていた。乾いた蛇口の雫を待ちかねた水仙の花が、湯気に煙った千鶴子の肌の後から見えるのも、別れの前の矢代には忘れがたい一瞬の光りのようなものだった。

東京へ帰る千鶴子らの汽車を送り出してから、矢代はひとり駅前の広場に立っていた。踏みつけられた固い雪に朝の日が射しているので、足もとの寒さにも拘らず肩は温かった。彼はすぐ山小屋へ引き返す気も起らず、何んとなく愉しいままに駅前の汁粉屋へ這入って火鉢に手を焙った。狭い家の中は日光に照り輝いた前後いちめんの雪で明るかった。彼は千鶴子のいるときよりも、むしろ今のひとりの方が延びやかに感じられ、汁粉を待つ間が、思いがけない幸福な時間になるのだった。

千鶴子の渡していった手紙が、ときどき外套のポケットの中で重く手に触れたが、彼はその手紙のために紊される今の愉しみの方が惜しまれ開封しなかった。