Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
書院の外の梅の枝に軽く雪の鳴るのが聞えた。母は台所から銚子を持って来たときやはり雪だと二人に報らせた。
「わしの危かったときは、宇治川の水電だったな。あれを作るときには東洋一だというので元気も大いに出たが、そのときも反対派の技師とわしは喧嘩をして、じゃ、やるが良かろうと向うのままにしてみたら、とうとうそこから崩れた。そこで大ぶ生埋めにされたが、崩れはわしの足もとまで来て止った代りに、成田のお札が真っ二つに割れていたね。はッはッはッ。」
父一代のほこりか顔は赧く熟し機嫌も一層良さそうだった。しかし、矢代は父から基経の名を聞いたときから、いつとは識れず暗鬱な情緒を次第に強く感じて来ていた。それも基経の子の時平が矢代のもっとも好きな菅原道真を太宰府に流した暗さだったが、些細なこととはいえ、矢代は幼少のころから、お前は天神さんの御命日に生れたのだと母から聞かされていたために、特に道真のことは矢代の気にかかった。母にせがみ梅を庭に他の樹より多く植えて貰ったのも、一つは道真の好きな梅が伝染ったからでもある。今、時平の父の名とともに泛ぶ庭の梅に、音たてて降る雪の冷たさも、彼の記憶のうすら寒さとなり、一抹の憂鬱さを沁み込ませて来るのだった。