Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.765 Zeichen · 21 Bildschirme
昏れがたのかなしげな蜩ぜみの声を聞きとめて、「ああもう秋だ」とおもったが、それからどれほども経たぬのに、夏のうちは見えなかった林のなかの、松の幹にからみついていた蔦かずらの葉が、燃えるように紅葉しはじめ、夜更けの空をわたる風の音もいつかしら寒ざむとして、ま近に来ている冬を思わせる日々となった。
そうしたある夜のこと、菊枝ははじめて唐苣を採って食膳にのぼせてみた。姑はひと箸でそれと気づいたらしい、いつもは表情のない顔がにわかにひきしまり、ふと手をやすめてじっと遠くの物音を聴きすますような姿勢をした。菊枝はどきっと胸をつかれた、姑のそのような姿勢はかつてないことだった、
「気づかれたのではないか」とおもった。
しかし、やがて姑はしずかなこえで云った。
「これは唐苣ですね」
「……はい」
「これは不断草ともいうそうで、わたしのなによりの好物ですよ、不断草とはよい名ではないか。断つときなし、いつでもあるというのですね、不断草……ずいぶん久方ぶりでした」
「お気に召しましてうれしゅう存じます」
菊枝はほっと息をつきながら云った、
「柔らかい葉でございますから御隠居さまにはおよろしかろうとおもいまして、種子を持ってまいりました、土がよく合いましたとみえてたくさん生えておりますから、……でも雪にはどうでございましょうか」