Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.743 Zeichen · 22 Bildschirme
「つかれたであろう、みなよいほどにさがってやすめ、格之助と金三郎で伽をする、遠慮なくさがるがよいぞ」
そう云って部屋を出た。寝間へははいらずに、暗い廊下をふんでまた書斎へかえった。すっかり片付けられた室内に、ひっそりと燭台の火がまたたいていた。机を光に向け直して坐った、頭はやはり冴えているし、想念もおなじしずけさにあった、けれども風のふきとおるような心の空隙だけは、時を経るにしたがっておおきくなるように思えた。かなしみでもない、そういう感動はながい月日のあいだすでに飽きるほどあじわいつくして来た。いま彼の心にかようものはしらじらとした空虚の感である、からだのどこかを暗く塞いでいたものがぽかりと脱れて、そこを蕭々と風のふきとおるような感じがするだけだった。藤右衛門はつと手をのばして稿本をひらいた。それから硯箱の蓋をとった。けれどもそれは校閲をしようと思ったからではなく、習慣でしぜんとそうしたまでのことだった。彼はそのままながいこと空をみつめていた。かなりほど経てからのことであった、遠くから音をしのぶ人のざわめきがきこえて来たので、藤右衛門はふとわれにかえった、耳にたつほどではないが、病間のあたりでかすかに、音をしのばせた看経の声がしはじめた。