Japanische Klassiker mit Furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lesen Sie 日本婦道記 (にほんふどうき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.412 Zeichen · 25 Bildschirme
一
一
二年あまり病んでいた母がついに世を去ったのは弁之助が七歳の年の夏のことであった。幼なかった彼の眼にさえ美しい凜としたひとで、はやくから自分の死期を知って泰然とそのときを待っているというところがあった。ながい病臥のあいだも苦痛を訴えたり思い沈んだりするようなことはなく、いつも明るい眉つきでしんとどこかを見まもっているという風だった。弁之助は学塾から帰って来ると、病間へいって素読をさらうのが日課だったが、母はそのあいだ褥の上にきちんと坐り、身うごきもしないで聴くのが常だった、それは亡くなる五日ほどまえまで続いたのである。しだいに窶れてはゆくが面ざしはいつまでも冴えて美しく、いつも瞠っているような大きな眸子も澄みとおるほどしずかな光を湛えていた。臨終のときにはまるで白磁のような顔に庭の樹立のふかい緑がうつって、なにかしら尊い画像をでも見るような感じだった。
「よくおがんで置くのですよ」別れの水をとるときに叔母の由利がそばからこう云った、「このお顔を忘れないようによくよくおがんで置くのですよ、ようございますね」眼をつむればすぐみえるようになるまでよく見て置くように、諄いほど幾たびもそう云った。