Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme

Aozora Bunko

私は庭に出て、子供のことを考えて、ボンヤリと眺め入った。樹木を隔てた植木屋の勝手口の方では、かみさんが障子を開けて、

「黒――来い、来い、来い」

こう呼ぶ声が聞えた。

二晩ばかり、私は家の方に居た。その翌(あく)る晩も、知らせが有ったら直に病院へ出掛ける積りで、疲れて眠っていると、遅くなって電報を受取った。

「ミヤクハゲシ、スグコイ」

とある。九時半過ぎた。病院へ着く前に最早あの厳重な門が閉されることを思って、入ることが出来るだろうかとは思ったが、不取敢(とりあえず)出掛けた。追分(おいわけ)まで車で急がせて、そこで私は電車に移った。新宿の通りは稲荷(いなり)祭のあるころで、提灯(ちょうちん)のあかりが電車の窓に映ったが、そのうちに雨の音がして来た。濡(ぬ)れて光る夜の町々の灯――白い灯――紅い灯――電線の上から落ちる青い電光の閃(きらめ)き――そういうものが窓の玻璃(ガラス)に映ったり消えたりした。寂しい雨の中を通る電車の音は余計に私を疲れさせた。車の中で私は前後を知らずにいることもあった。時々眼を覚ますと、あのお房が一週間ばかり叫びつづけに叫んだ焦々(いらいら)した声が耳の底にあった。