Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
二度目に南清を指(さ)して出掛けるまでには、実に彼は種々雑多なことをやった。通弁にも成り、学校の教員にも成り、新聞の通信員にも成り、貿易商とも成った。書家の真似までした。前後十二年というものは、海の彼方(むこう)で送った。御承知の通り、外国へ行って来るとか、戦地でも踏んで来るとかすれば、大概な人は放縦な生活に慣れて来る。気の弱い遠慮勝な山本さんには、それも出来なかった。彼も、ある婦人と同棲(どうせい)した時代があって、二三年一緒に暮したことも有ったが、その婦人に別れてからは再び家を持つという考えは起さなかった。何処へ行っても彼は旅舎に寝たり起きたりした。そして、遠くの方でばかり女というものを眺(なが)めていた。丁度その旅舎の窓から美しい日光でも眺めるように。尤(もっと)もこれは山本さんの遠慮勝な性分から来たことだ。正直な話が、山本さんは是方(こちら)から愛した経験は有っても、未だ他(ひと)のように、真実(ほんとう)に愛されたということを知らなかった。こんな風にして一生は済んで了うのか。それを彼は考えた。最早(もう)山本さんも三十九だ。
しかし山本さんには、唯一度、愛されたと思うことが有った。