Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
金のことにかけては細(こまか)い山本さんが、この旅には出さなくとも済むようなところまで出して、一寸寄って昼飯を食った旅舎の茶代までうんと奮発した。汽船の出る時が来た。伊豆の港々へ寄って行く船だ。二人は旅舎の前の崖(がけ)を下りて、浪打際(なみうちぎわ)の方まで下りた。踏んで行く砂は日を受けて光るので、お新は手にした洋傘(こうもり)をひろげた。日に翳(かざ)した薄色の絹は彼女の頬のあたりに柔かな陰影(かげ)を作った。山本さんは又、旧いことまで思出したように、彼女と二人で歩くことを楽みにして歩いた。
明るい波濤(なみ)は可畏(おそろ)しい音をさせて、二人の眼前(めのまえ)へ来ては砕けた。白い泡を残して引いて行く砂の上の潮は見る間に乾いた。復た押寄せて来た浪に乗って、多勢の船頭は艀(はしけ)を出した。山本さんもお新も船頭の背中に負(おぶ)さって、艀の方へ移った。騒がしい浪の音の中で、船頭は互に呼んだり、叫んだりした。
本船に移ってからも、お新は愉快な、物数寄(ものずき)な、若々しい女の心を失わなかった。旅慣れた彼女は、ゼムだの、仁丹(じんたん)だのを取出して、山本さんに勧(すす)める位で、自分では船に酔う様子もなかった。