Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
旦那様は奥様の御機嫌を取るようになすって、御小使帳が投遣りでも、御出迎に出たり出なかったりでも、何時まで朝寝をなさろうとも、それで御小言も仰らず。御家に奥様が居て下さるのは――籠に鶯の居るように思召して、私でさえ御気毒に思う時でも御腹立もなさらないのでした。旦那様は銀行から御帰りになると、時々両手を組合せて、御庭の夏を眺めながら憂愁に沈んでおいでなさることもあり、又、日によっては直に御二階へ御上りになって、御飯の時より外には下りておいでなさらないこともありました。奥様が御気色の悪い日には旦那様は密と御部屋へ行って、恐々御傍へ寄りながら、「綾さん、どっか悪いのかい。こんな畳の上に寝転んでいて、風でも引いちゃ不可いじゃないか。そうしていないで、診て貰ってはどうだね」と御聞きなさる。「いいえ、関わずに置いて下さい」というのが奥様の御返事でした。
変れば変るものです。奥様は御独で縁側に出て、籠の中の鳥のように東京の空を御眺めなさることもあり、長い御手紙を書きながら啜泣をなさることも有ました。時によると、御寝衣のまま、冷々した山の上の夜気に打れながら、遅くまで御庭の内を御歩きなさることも有ました。