Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
お島はどうすることも出来ないような調子で言って、夕方の空を眺めながら立っていた。暮色が迫って来た。
「鞠ちゃん、吾家へお入り」と彼女はそこいらに出て遊んでいる子供を呼んだ。
「オバケ来るから、サ吾家にお出」と井戸の方から水を汲んで来た下女も言葉を掛けて通った。
山家の娘らしく成って行く鞠子は、とは言え親達を泣かせるばかりでも無かった。夕飯後に、鞠子は人形を抱いて来て親達に見せた。そして、「お一つ、笑って御覧」などと言って、その人形をアヤして見せた。
「かァさん、かさん――やくらか、やくや――ほうちさ、やくやくう――おんこしゃこ――もこしゃこ――」
何処で教わるともなく、鞠子はこんなことを覚えて来て、眠る前に家中踊って歩いた。
五月の町裏らしい夜は次第に更けて行った。お島の許へ手習に通って来る近所の娘達も、提灯をつけて帰って行った。四辺には早く戸を閉めて寝る家も多い。沈まり返った屋外の方で、高瀬の家のものは誰の声とは一寸見当のつかない呼声を聞きつけた。
「高瀬君――」
「高瀬、居るか――」
声は垣根の外まで近づいて来た。
「ア」
と高瀬は聞耳を立てて、そこにマゴマゴして震えている妻の方へ行った。