Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
この度の出京はそれとなく職業を捜す為でもある。不安の念は絶えず原の胸にあった。
「では失礼します。君も御多忙でしょうから」原は帽子を執って起立った。「いずれ――明日――」
「まあ、いいじゃないか」と相川は眉を揚げて、自分で自分の銷沈した意気を励ますかのように見えた。煙草好きな彼は更に新しい紙巻を取出して、それを燻して見せて、自分は今それほど忙しくないという意味を示したが、原の方ではそうも酌らなかった。
「乙骨君は近頃なかなか壮んなようだねえ」
と不図思出したように、原は戸口のところに立って尋ねた。
「乙骨かい」と相川は受けて、「乙骨は君、どうして」
「何卒、御逢いでしたら宜しく」
「ああ」
々にして原は出て行った。
その日は、人の心を腐らせるような、ジメジメと蒸暑い八月上旬のことで、やがて相川も飜訳の仕事を終って、そこへペンを投出した頃は、もう沮喪して了った。いつでも夕方近くなると、無駄に一日を過したような後悔の念が湧き上って来る。それがこの節相川の癖のように成っている。「今日は最早仕方が無い」――こう相川は独語のように言って、思うままに一日の残りを費そう、と定めた。