Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
奥様は私の言葉を御聞きなさると、もう子供のように御泣きなさるのでした。
拠なく、私も引受けて、歯医者に逢わせる御約束をしましたら、漸と、その時、火のように熱い御手が私から離れたようにこころづきました。
その晩は、私も仮の出来心で、――若い内に有勝な量見から。
然し、悪戯が悪戯でなくなって、事実も事実も恐しい事実になって行くのを見ては、さすがに私も震えました。私は後暗いと、恐しいとで、噂さを嗅附ける犬のようになって、御人の好い旦那様にまで吠えました。
或時は自分で責められるような自分の心を慰めて見たこともありましたのです。全く道ならぬ奥様の恋とは言いながら、思の外のあわれも有ましたので。人の知らない暗涙は夜の御床に流れても、それを御話しなさるという女の御友達は有ませんので。ですから、私は独り考えて、思い慰めました。
さ、それです。
奥様は暖い国に植えられて、軟な風に吹かれて咲くという花なので。この荒い土地に移されても根深く蔓る雑草では有ません。こうした御慣れなさらない山家住のことですから、さて暮して見れば、都で聞いた田舎生活の静和と来て視た寂寥苦痛とは何程の相違でしょう。