Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
青い煙は煤けた窓から壁の外へ漏れる。私は鼻を啜りながら、焚落しの火を十能に取って炉へ運びましても、奥様は未だ御目覚が無い。熱湯で雑巾を絞りまして、御二階を済ましても、まだ御起きなさらない。その内に、炉に掛けた鍋は沸々と煮起って、蓋の間から湯気が出るようになる。うまそうな汁の香が炉辺に満ち溢れました。
八時を打っても、未だ奥様は御寐です。旦那様は炉辺で汁の香を嗅いで、憶出したように少許萎れておいでなさいました。やがて、御独で御膳を引寄せて、朝飯を召上ると、もう銀行からは御使でした。そそくさと御仕度をなすって、黒七子の御羽織は剣菱の五つ紋、それに茶苧の御袴で、隆として御出掛になりました。私は鍋を掛けたり、下したりしていると、漸う九時過になって、奥様は楊枝を銜えながら台所へ御見えなさいました、――恐しい夢から覚めたような目付をなすって。もう味噌汁も煮詰って了ったのです。
その日は御祝の印といって、旦那様の御思召から、門に立つものには白米と金銭を施しました。
一体、旦那様は乞食が大嫌いな御方で、「乞食を為る位なら死んでしまえ」と叱す位ですから、こんなことは珍しいのです。