Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
源は周章(あわ)てて、追馳(おいか)けて、草の上を引摺(ひきず)って行く長い手綱に取縋(とりすが)りました。
さすがに人に誇っておりました源の怪力も、恋の力には及(かな)いません。源は怒の為に血を注いだようになりまして、罵(ののし)って見ても、叱って見ても、狂乱(くるいみだ)れた馬の耳には何の甲斐(かい)もない。五月雨(さみだれ)揚句の洪水(おおみず)が濁りに濁って、どんどと流れて、堤を切って溢(あふ)れて出たとも申しましょうか。左右に長い鬣(たてがみ)を振乱して牝馬と一緒に踴(おど)り狂って、風に向って嘶きました時は――偽(いつわり)もなければ飾もない野獣の本性に返りましたのです。源はもう、仰天して了って、聢(しっかり)と手綱を握〆めたまま、騒がしく音のする笹の葉の中を飛んで、馬と諸馳(もろがけ)に馳けて行きました。黄色い羽の蝶(ちょう)は風に吹かれて、木の葉のように前を飛び過ぎる。木蔭に草を刈集めていた農夫は物音を聞きつけて、東からも西からも出合いましたが、いずれも叫んで逃廻るばかり。馬の勢に恐(おじ)て寄りつく者も有ません。終(しまい)には源も草鞋を踏切って了う、股引は破れて足から血が流れる――思わず知らず声を揚げて手綱を放して了いました。