Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
「お前さんは何処ですね」
「伊勢でござります」
「まあ、遠方ですねえ」
「わしらの方は皆こうして流しますでござります。御詠歌は西国三十三番の札所々々を読みましてなア」
「どっちの方から来たんですね」
「越後路から長野の方へ出まして、諸方を廻って参りました。これから御寒くなりますで、暖い方へ参りますでござりますわい」
その時、爺さんが恍けた顔を出して、
「あんな乞食の歌を聞いて何にする」
と聞えよがしに笑いました。
「これはこれはどうも難有うござります。どうも奥様、御蔭様で助かりますでござります」
巡礼は泣き出した児を動揺って、暮方の秋の空を眺め眺め行きました。
爺さんは奥様を笑いましたけれど、私はそうは思いませんので。熟々奥様があの巡礼の口唇を見つめて美い声に聞惚れた御様子から、根彫葉刻御尋ねなすった御話の前後を考えれば、あんな落魄た女をすら、まだしもと御羨みなさる程に御思召すのでした。この同じ屋根の下に旦那様と御二人で御暮しなさるのは、それほど苦いと御思召すのでした。御器量から、御身分から――さぞ、あの巡礼の目には申分のない奥様と見えましたろう。奥様の目には、又た、世間という鎖に繋がれて否でも応でも引摺れて、その日その日を夢のように御暮しなさるというよりか、見る影もない巡礼なぞの身の上の方が反って自由なように御思い