Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
「そう言うな。十月余も逢わねえじゃねえか。顔が見たくはねえか……」
奥様は炉辺の戸棚を開けて、玻璃盞を探しながら、
「水でも一つ上げましょう」
「見ろ、奥様はあの通り親切にして下さる、……時にお定、今幾時だ」
「十二時」と私は虚言を吐いてやりました。
「なに、十……」と険しい声で、
「十一時半」
「さあ水を御上り」と奥様はなみなみ注いだのを下さる。
「難有うごわす。ええ、ぷ、私は今夜芸者……を買って、四五円くれて了った。復、私はこれから行って、……そ、そ、その、飲もうというんで」
「大変酔ったものだね」
「これ、早く御帰りよ。まるでその姿は雫じゃないか、――傘も持たず」
「洋傘は買ったけれども、美代助にくれて来やした。ええ、ぷ、……なあ奥様、一服頂戴して」
「煙草なんか呑まなくても好から、さっさと御行」
「さあ、煙草盆を上げますよ」
と出して下さる。その御顔を眺めて、父親は甘そうに一服頂いて、
「よう、奥様は未だ若えなア。旦那様は――私旦那様の御顔も見て行きたい」
「旦那様は御留守だよ」と私が横から。
「幾時だ」と復尋ねる。
「十一時半。主家じゃもう十時になれば寝るんだよ。さあ、さっさと御帰りよ」