Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
奥様から頂いた華美な縞の着古しに毛繻子の襟を掛けて、半纏には襟垢の附くのを気にし、帯は撫廻し、豆腐買に出るにも小風呂敷を被けねば物恥しく、酢の罎は袖に隠し、酸漿鳴して、ぴらしゃらして歩きました。柏木の友達も土臭く思う頃は、母親のことも忘れ勝でした。さあ、私は自分の変っていたのに呆れました。勤も、奉公も、苦労も、骨折も、過去ったことを懐いやれば、残るものは後悔の冷汗ばかりです。
こういうことに思い耽って、夢のように歩いて帰りますと、奥様は頭ごなしに、
「お前は何をしていたんだねえ。まあ本町まで使に行くのに一時間もかかってさ」
と囓付くように仰いました。その時、私は奥様と目を見合せて、言うに言われぬ嫌な気持になりましたのです。怒った振も気取られたくないと、物を言おうとすれば声は干乾びついたようになる、痰も咽喉へ引懸る。故と咳払して、可笑くも無いことに作笑して、猫を冠っておりました。
その晩は、まんじりともしません。始めて奉公に上りました頃は、昼は働に紛れても、枕に就くと必と柏木のことを思出すのが癖になって、「御母さん、御母さん」と蒲団のなかで呼んでは寝ました。