Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
一里半ばかりの間、往来する人も稀(まれ)だった。谷々の氾濫(はんらん)した跡は真白に覆われていた。
訪ねて行った友達は、牧野君と言って、こういう辺鄙(へんぴ)な山村に住んでいた。ふとしたことから、私はこの若い大地主と深く知るように成ったのである。ここへ訪ねて来る度(たび)に、この友達の静かな書斎や、樹木の多い庭園や、それから好く整理された耕地などを見るのを私は楽みにしていたが、その日に限っては心も沈着(おちつ)かなかった。主人を始め、細君や子供まで集って、広い古風な奥座敷で、小諸に居る人の噂(うわさ)などをした。この温い家庭の空気の中で、唯私は前途のことばかり思い煩(わずら)った。事情を打開けて、話して見よう、話して見ようと思いながら、翌日に成ってもついそれを言出す場合が見当らなかった。
到頭、言わず仕舞(じまい)に、牧野君の家の門を出た。そして、制(おさ)えがたい落胆と戦いつつ、元来た雪道を岩村田の方へ帰って行った。一時間あまり、乗合馬車の立場(たてば)で待ったが、そこには車夫が多勢集って、戦争の話をしたり、笑ったりしていた。思わず私も喪心した人のように笑った。