Japanische Klassiker mit Furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme
――私の名は中村半九郎という。おまえはどうしてこんなところにしばられていたのか」
「あのう、――わたくしは……」
まだ声がふるえている、しかしそっと半九郎を見上げたひとみは、もうさっきほどおびえた色ではなかった。
「いってごらん、こわいことはないよ」
「はい、わたくしは酒田の御領分の者でございます。父は海産商人で名は市郎兵衛、わたくしはお糸と申します」
「――うん」
「父といっしょに松島見物にまいりました帰り、月山へお参りに寄りますと、ここの人たちにつかまりまして密偵だろうというお疑いをうけ、父はどこかへ連れ去られましたし、わたくしはしばられてあの倉の中へおしこめられてしまったのです、――もう命はないものと思っていましたら、昨日のひる頃でございましたか、……官軍が攻めてくるといって、ここの人たちは逃げて行き、わたくしは……」
「うそをつけ!」
いきなりわめきながら、石岡吉次郎が入ってきた。……娘はびっくりしてふりあおいだ。
「密偵と疑われてしばられた?」
吉次郎はにくにくしげに近寄っていった。
「それはこっちでいうことだ、そんな涙まじりのうそにかかる我々と思うか」