Japanische Klassiker mit Furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme
……そんなことをしても無駄だと思ったのである、月心尼は三日のあいだ、その手紙を机の上に置いたままにしていた。然し、そのとき汽車が初めて甲府の町まで延びて来て、郵便が一日で東京へ行くことを知った。
彼女は手紙を出した。
そして其日から草庵に籠ってしまった、返事の来るまでは外へ出る気もしなかったのである。……霧の下りて来る季節で、朝な朝な、草庵の周囲は灰白色の帷に包まれた、そして日が高く昇ると、雪のある甲斐駒の嶺が眩しくぎらぎらと輝いた。……月心尼は草庵のなかに坐ったまま、終日看経していた、心は静かに澄んでいたし、眼には仏の慈悲を思わせる浄光が溢れていた。
その朝もふかい霧だった。
一人の配達人が東京からの返事を持って来た。……月心尼はそれを草庵の門口で受取り、静かに庵室へ入って封を切った。……手紙は将軍の直筆で認められたものであった。
松本吉雄は自分が鳥羽の戦場で拾った男である、そういう書出しであった。……敵の集中砲弾にはねられて頭をやられ、すっかり記憶力を無くしているが、勇敢な兵士として自分の部下でよく働いた。そして薩南の乱には自分の身代りになって、敵の狙撃弾のため胸を射抜かれた。