Japanische Klassiker mit Furigana
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げつめい
月明
豊島 与志雄
Lesen Sie 月明 (げつめい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.772 Zeichen · 34 Bildschirme
十
咄嗟に隣りの室へ飛び込んだ。
「姉さん、姉さん!」
釣手を引き切られて落ちてきた蚊帳の下から、漸く匐い出して来た姉は、彼の様子を見てはっと身を退いた。それを構わず、彼は腕に縋りついていった。
「姉さん!」
息がつけないのを、むりに云い進んだ。
「恐いから、こつちへ寝かして下さい。」
姉も慴えていた。何とも云わないで、隣の室から彼の布団をずるずる引張ってきた。耳を澄しながら、間の襖をそっと閉めた。
「蚊帳をつっちゃいけません。」
云い捨てて彼は布団を頭から被った。
蚊帳を片付けていた姉は、俄にそれを向うへ投り出して、布団の中にもぐり込んだ。夜着の下から、震える手先を伸して彼の方へ縋りついてきた。
十
彼はどうしてもその理由を云わなかった、云えなかった。
毎晩、姉と同じ室に床を並べて、蚊やり線香をたいて寝た。けれども、夜中に時々魘された。昼間も遠くに幻が浮んでくることがあった。
「自分でも分らないのなら、せめてお医者に診て貰ったらどう? ね、そうなさいよ。」
不気味な不安さを覚え出してる姉の手前、それをも拒むわけにはゆかなかった。無駄だと知りつつ医者を迎えた。行きたくなかったので来て貰った。