Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme

Aozora Bunko

その夫婦だ。例の大勝の帳場を勤めている真勢さんとは縁つづきに当る人達だ。

「玉木さん達は何処に居るんです」

と捨吉が聞くと、お婆さんは奥座敷の二階の方を指して見せた。

霜焼が痛いと言って泣いた時分からの捨吉のことをよく知っているお婆さんは彼が平素に似ず晴々とした喜悦の色の動いた顔付で夏期学校の方から帰って来たのを見た。しかしお婆さんは何を聞いて来たかとも何を見て来たかともそういうことを捨吉に鑿って尋ねようとはしなかった。「最早お前さんも子供では無いから、三度々々御茶受は出しませんよ」なぞと言いながらも、矢張子供の時分と同じように水天宮の御供の御下りだの塩煎餅だのを分けてくれた。

捨吉は御辞儀をして玄関の方へ引退ったが、夏期学校で受けて来た刺戟は忘れられなかった。何という楽しい日を送って来たろう。捨吉は玄関の次にある茶の間へも行ってそう思って見た。まだ彼は友人の菅なぞと一緒に高輪の寄宿舎の方に身を置くような気がしていた。広い運動場の見える講堂側の草地の上に身を置くような気がしていた。多勢の青年が諸方から講演を聞きに集ったあのチャペルの高い天井の下に身を置くような気がしていた。