Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme

Aozora Bunko

玉木さんは何をして日を暮していたろう。明けても暮れても読んでいるのは一冊の新約全書だ。ところどころに書入のしてある古く手擦れた革表紙の本だ。読みさしの哥林多前書の第何章かが机の上に開けてある。

捨吉は学校の友達にでも物を尋ねるような調子で、

「玉木さんがいらっしゃる築地の方の教会は何と言うんですか」

「私の属してるのは浸礼教会です」

玉木さんは煙草を服むことさえ不本意だが、退屈凌ぎに少しはやるという顔付で、短い雁首の煙管で一服吸付けながら答えた。

「基督教の中にもいろいろな宗派が有りますね。浸礼教会と云うと、真勢さんの行くのと同じですね」

「ええ、真勢も矢張そうです」

玉木さんは眼に見えない昔の士族の階級を今も猶保存するかのように、真勢、真勢と呼捨にした。

「玉木さん、あなたはこれからどういうことをなさるんです」

この捨吉の問には、玉木さんはめったにそんなことを聞いてくれた人も無いという眼付をして、やや眉をあげて、

「私ですか。これから伝道者として世に立とうと思ってます。私も今日までには随分いろいろなところを通って来て……失敗ばかりして……まあ漸く感謝の生涯に入りましたよ……」