Japanische Klassiker mit Furigana
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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Lesen Sie 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 169.810 Zeichen · 345 Bildschirme
せわしげに机の端を指でたたきながら天願氏が私の方を見た。
「幽霊や心霊などはありはせん。死んだら、漠々として何も無いのだよ。人が死ぬというのに皆集って泣いたり喚いたり、心配したり憂欝になるなんて馬鹿な話だよ」
「そんな訳には行かないでしょう。矢張り悲しいのは本当なんだから」
「宗教は科学が発達すれば無くなるさ。ぼくはそれを信ずる、迷信は亡びる」
旅川がそれをさえぎって言った。
「生命というものは不思議なものだから――」
その時、壁の向うで腸の千切れるような悲痛な泣声が起った。別の声がそれに押っかぶせて娘の名を呼んだ。きみちゃん! きみちゃん! きみちゃん! 段々呼ぶ声が乱れ始めたと思うと、血をはくような号泣がそれに取って代った。幾人もの嗚咽が断絶しながら起った。襖を開く音がして、慌ただしいスリッパの音がしどろもどろに乱れながら遠のいて行った。私は背中に氷をあてられたような気持で天願氏の顔を見た。
「生命は蛋白質だから、生命は蛋白質の配列によって定まるものだから――」
天願氏が、かすれた声で言い淀んだ。
臨終。此の号泣を、此処の下宿人は今皆聞いている。手も足も出ない下宿人達の心の姿勢は、此の上も無く奇怪なものに思われた。