Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
Lesen Sie 桜島・日の果て・幻化 (さくらじま) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 169.810 Zeichen · 345 Bildschirme
「吉良兵曹長。言いがかりのようなことはよせ」
なに、と言葉にならない言葉が聞えたと思うと、何か絡み合うような気配のうち、肉体がぶつかり合うようなにぶい音がし、小さくなっている私の背に、誰かがよろめいてたおれかかった。乱数盤が、かたりと床に落ちると、数十本の乱片がそこらにみだれ散った。烈しい呼吸が、私の襟筋をかすめた。私は背筋を硬くして、じっと暗号書を見つめていた。低い虚ろな笑い声のようなものが、聞えたと思った。私は思わずふり返った。壕を支えた木組によりかかって、背の高い吉良兵曹長の顔は、蝋のように血の気を失い、仮面に似た無表情であった。見ていけないものを見たような気持で、思わず目を外らしたとき、呻くような小さな声で、吉良兵曹長の声がした。
「よして呉れ」
冗談を言うのをよせと言うのか、醜い争いをするのをよせと言うのか、自分に言い聞かせるような弱々しい声音であった。白々しい沈黙が来た。その中を、よろめくようにして、吉良兵曹長は壕を出て行ったらしかった。湿った土くれを踏む長靴の音が、それにつづいた。そして、緊張のあとの、ゆるんだ気配が背に感じられた。私は今日の電報綴りを意味なく繰っていた。