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Japanische Klassiker mit Furigana

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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

Lesen Sie 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 148.519 Zeichen · 296 Bildschirme

Aozora Bunko

女たちが帰って来るまで、彼はそうして坐っていた。

やがて賑やかな声がし、女たちの帰ったことがわかったが、妻の律がそこへはいって来るまで、甲斐は机によりかかっていた。律はうしろから良人を見た。彼女は三十七歳になるが、年よりはるかに若くみえる、眉と眼のあいだがひろく、鼻がかたちよく高い。口はやや大きいが、ひき緊った顎と、ゆたかな頬とで、ぜんたいがゆったりしたういういしさと、優雅ななまめかしさをもっていた。

律は良人のうしろ姿を、立ったまま、やや暫くみつめていたが、やがて、そっと近づいてゆき、身を跼めて、うしろから、そっと良人を抱いた。

「怒っていらっしゃるの」と律は囁いた。

「ねえ、怒っていらっしゃるのね、あなた」

「汗を拭いておいで」と甲斐が云った。

「怒っていらっしゃるのね」

「汗を拭いて来ないか」

「怒ってはいない、と仰しゃって下されば」

「怒ってはいないよ」

「怒っていらっしゃるわ」

甲斐は黙った。

律はやさしく、しかもすばやく、良人の耳に唇を触れ、そうして、躯ぜんたいで、良人を包むようにした。甲斐は動かなかった。温かく、重たく、そして粘るように軟らかな妻の躯が、妻の躯の弾力のあるまるみや、厚みが、自分の背中にじんわりと押しつけられるのを感じながら、甲斐はやはり無抵抗に動かなかった。