Japanische Klassiker mit Furigana
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しのぜんご
死の前後
豊島 与志雄
Lesen Sie 死の前後 (しのぜんご) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.273 Zeichen · 35 Bildschirme
通帳を開いてみると、千円をこした金額なのに、蔦子は更に驚いた。おしげはむりにおしつけた。それではしばらく拝借しとくわといって、蔦子は通帳と印章を帯の間にさしこんだ。その無雑作な手附を、おしげはじっと眺めていたが、またたきもしないその眼から、涙がはらはらと、だしぬけに流れおちた。
「あら、どうしたの、おばさん。」
おしげはなお泣いた。蔦子はすり寄ってその肩に手をかけ、おしげの堅い指先を膝に感ずると、そこから痛みに似たものが胸に伝わってきて、涙ぐんでしまった。
「ねえ、おばさん、あたしこれから一生懸命に働いて、きっと御恩報じをするわ。どうにかなったら、家を一軒持ちたいと思ってるの。そしたら、おばさん来て下さるわね。」
おしげは一語一語うなずいていた。それから泣きやんで、何か美しい幻をでも見るような眼付で、蔦子の顔を見守った。蔦子はしぜんに微笑んでみせた。珍らしくその頬に生々とした血が流れた。おしげはがっくりと卓子によりかかっていたが、小首をかしげてから、杯をとりあげた。
「おばさんと、こうして飲むのは、ほんとに久しぶりよ。」
おしげはだまってうなずいてみせた。