Japanische Klassiker mit Furigana
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しのこうかい
死の航海
国枝 史郎
Lesen Sie 死の航海 (しのこうかい) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.634 Zeichen · 18 Bildschirme
極端に云えば、老人はそのガブリエルが室の中へ這入ったことさえ知らなかったのである。
だから勿論、午前二時頃、海坊主のジョージと綽名された合宿所の主人が自分の室で何者にか殺された上に、多額の貯金を奪われたことも、凶行の現場へ遺留品として、老人のハンケチが落ちていたことも、一度盗まれた古靴が、凶行の現場から老人の室まで恐ろしく鮮明した靴跡を印けて、そのままちゃんと老人の室に置かれてあったことなども老人は夢にも知らなかった。ただ老人は夜もすがら、黄金の鷲で飾られた古風な巨大の商船から船長としての彼を迎えるための短艇が早く来るようにとそればかりを待っていたのであった。
夜は明方に近付いた。闇黒であった空の涯が紫陽花色に色づいた。其時、老人は、初めて見た。彼を迎えの短艇の姿を! 短艇はグングン波を切って、彼の居る窓の方へ近づいて来る。八人乗りの短艇らしい。力を極めて漕ぐ櫂につれて、水沫がサッと翻えるのが、黎明の光に光って見える。見る見る短艇は近寄って来た。やがて窓の下で停止った。
「船長!」と忽ち呼ぶ声がする。
「お待ち申して居りました! さあどうぞ直ぐにお乗り下さい」