Japanische Klassiker mit Furigana
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はは
母
Lesen Sie 母 (はは) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.551 Zeichen · 18 Bildschirme
震える肩、濡れた睫毛、――男はそれらを見守りながら、現在の気もちとは没交渉に、一瞬間妻の美しさを感じた。
「ですけれども、――この部屋は嫌なんですもの。」
「だからさ、だからさっきもそう云ったじゃないか? 何故この部屋がそんなに嫌だか、それさえはっきり云ってくれれば、――」
男はここまで云いかけると、敏子の眼がじっと彼の顔へ、注がれているのに気がついた。その眼には涙の漂った底に、ほとんど敵意にも紛い兼ねない、悲しそうな光が閃いている。何故この部屋が嫌になったか? ――それは独り男自身の疑問だったばかりではない。同時にまた敏子が無言の内に、男へ突きつけた反問である。男は敏子と眼を合せながら、二の句を次ぐのに躊躇した。
しかし言葉が途切れたのは、ほんの数秒の間である。男の顔には見る見る内に、了解の色が漲って来た。
「あれか?」
男は感動を蔽うように、妙に素っ気のない声を出した。
「あれは己も気になっていたんだ。」
敏子は男にこう云われると、ぽろぽろ膝の上へ涙を落した。
窓の外にはいつのまにか、日の暮が雨を煙らせている。その雨の音を撥ねのけるように、空色の壁の向うでは、今もまた赤児が泣き続けている。